目が覚めた時、ホーンテイルは居なかった。

ゆっくりと身体を起こして、俺は目を疑った。
俺の無二の親友であるファイアブルが酷い
怪我を負って倒れていたのだ、俺は慌てて
ファイアブルを抱き起こす。身体からは血が
ドクドクと流れ落ちていた―――死んでいる。

「・・・嘘・・・だろ・・・」

ファイアブルの身体には爪の痕が残っていた。
巨大な爪痕は、ドラゴン族のものに見える。
しかしこれだけ巨大な物となると該当するのは
・・・ホーンテイルぐらいしか考えられない。
ありえない、ジャクムは否定したかった。
しかし残された痕跡は犯人を如実に示している。
ジャクムは動かないファイアブルを抱きしめた。

「・・・どうして・・・」

解らなかった、愛し合っているのに。
思いあっているのに、どうしてこんな
酷いことをするのか・・・解らなかった。
ジャクムは祭壇の下にファイアブルの
遺体を埋めると、リプレに向かう事にした。
エルナスの奥地からリプレに行くにはまず
オルビスを通らねばならない、道程は遠い。











ホーンテイルは壊していた、今までの何もかもを。
一緒に桃を食べたあの場所、散歩道、隠れ家。
かけっこしたヘネシス、木登りしたエリニア・・・
全てが彼女の氷の吐息によって凍っていく。
一つ、また一つと思い出が死んでいくのを
ホーンテイルは静かに見届けていた。
何もかもが素晴らしかったあの日々はもう
二度と帰ってはこない・・・そして新しい
思い出を作ることも無い、ホーンテイルは
これからビシャスを痛めつけにいく予定だった。
裏切ったことは告げない、ただ終わらせる。
そうしなければならない・・・そう思っていた。








ジャクムがリプレに行こうとオルビスに着いた時
オルビスは氷で包まれていた、あたり一面が
冷え切っていてまるでエルナスのように寒い。
いったいどうなっているのか、ジャクムは周囲を
見回す。ふと、天から降りてくる影が見えた。

ホーンテイルだった

ジャクムは一目散にホーンテイルの着地地点へ
走り出す、ホーンテイルはその腕にビシャスを
掴んでいた。そう、掴んでいた・・・無造作に。
「ホーンテイル!これはいったいどーゆー
 ことなんだよ!!なんでこんな酷いこと
 するんだ?!ファイアブルを殺したのも
 やっぱりお前なのか?!どうなんだよっ!」
ジャクムは一気呵成に叫んだ。
ホーンテイルはその様子を冷ややかに見ていた。
「・・・ホーンテイル?」
ジャクムは心配そうに彼女を見る。
ホーンテイルは掴んでいたビシャスをポイっと
投げ捨てた、ビシャスはぼろぼろに弱っている。
「―――っ!!お前・・・!!」
ジャクムはビシャスのもとに駆け寄る。
死んではいないようだ、僅かに息をしている。
「・・・なんでだ?!どうかしちまったのか?!
 お前はこんなことする奴じゃなかったろ!!
 お前は優しくて暖かくて・・・いい奴なのに!」
ホーンテイルはその言葉に、クスっと笑った。

「どうか、覚えていて。
 貴方を愛していた事を」

ホーンテイルのその言葉に、ジャクムは
しばらくの間何も言えなくなった・・・そして
ホーンテイルのその言葉の意味を理解した時
心の奥底から怒りやら憎しみやら悲しみやら
なにか・・・ドロドロとした嫌な感情がまるで
溶岩のように溢れ出してきた、ジャクムは
生まれて初めて、ホーンテイルを憎いと思った。

「決して、忘れはしない。
 君と過ごしたあの日々を」

彼が返した言葉に、ホーンテイルは答えない。
背中の大きな翼を広げて大空へ舞い上がる。

きっと、これが永遠の別れになるだろう。

もう二度と、手を繋ぐことも並んで歩くことも
笑いあうことも泣き合うことも支えあうことも
抱き合うことも・・・無い。永遠に、もう二度と。



さよなら 愛しい人よ



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