ささやかな勘違い

それによってジャクムとホーンテイルは終わってしまった。
ジャクムはホーンテイルを愛していた、もちろんそれは
ホーンテイルも同じ・・・けれどホーンテイルはビシャスと
付き合うことを決めていた・・・二人とも気づくのが
遅すぎた、互いに愛し合っている事に。故に・・・
ホーンテイルは全てを壊す事にした・・・今までの
全てを白紙にして、なにもかもをリセットする為に。
そしてもう二度と元に戻さない為に。彼女の行為は
誰も傷つけないための破壊に他ならなかった。しかし
ジャクムはそう思えなかった、無理も無い、親友の
ファイアブルを失ったのだ・・・彼の目には破壊は破壊と
してしか映らなかったろう、ホーンテイルがどれほど心を
痛めながら破壊を行っていたかなど、彼には解りえない。

そう 全ては ささやかな勘違い

「友達」のままでいれば良かったのに、「恋」に手を
伸ばさなければ二人とも、いや、他のみんなも
幸せになれただろうに・・・ほんの一度、たった一度
伝え合ってしまった為に、愛し合ってしまった為に
何もかもを犠牲にする結末しか選べなくなってしまった。

ホーンテイルは愚かだろう、笑う者も居た、バカに
する者も居た。ジャクムもそうだった・・・しかし
彼女はそれでもジャクムを愛していた、もちろん
その思いを伝えることは出来ない・・・自分の弱さを
責め続け、いつまでも一人ぼっちで生きていく・・・

それが、彼女が背負った十字架。

広大な世界の中、たった一人で悪を背負う道。
愛する者にけなされ続けて生きていく道・・・。








“どうか、覚えていて。
 貴方を愛していた事を”

“決して、忘れはしない。
 君と過ごしたあの日々を”

さよなら 愛しい人よ












勘のいい人ならもうお気付きかもしれない、冒険者が
この世界に呼ばれた理由を・・・そう、全ては
全てを元に戻す為・・・拗れて元に戻らなくなった
世界を、再び争いや諍いの無い世界に戻す為。
ホーンテイルが世界を壊した為に、いまや世界は
バラバラで孤立しあっている。冒険者たちにはその
修復の為に来て貰っているのだ・・・二人の
拗れた関係を修復する為に、世界のバランスを
取り戻す為に・・・その為に強くなり、ホーンテイルを
倒し、ジャクムを倒し、二人を引き合わせて欲しい。
そうすればこの世界は再び平和になる・・・
随分と長い話になってしまったが、よくここまで
読んでくれたものだ・・・君たち読者諸君には
感謝している、ありがとう。そして、どうかこの物語を
忘れないで欲しい・・・後世にまで語り継いで欲しい。
忘れなければ、きっといつの日にか世界は元の
あるべき姿に戻る・・・そうなる日を『私』は信じている。

この物語を嘘だと思って笑う人も居るだろう。
この物語を忘れてしまう人も居るだろう。
それでも構わない、たった一人でもいい・・・
誰かが語り継いでくれさえすれば、きっと
『私』の望んだ結末へと繋がっていく。明日を
紡ぐのはもはや『私』ではなく、君たちなのだ。
この世界―――君たちが呼んでいる名で
語るならば“メイプルワールド”と言う名の
世界―――この世界を『私』は君たち冒険者に
委ねる事にする、煮るなり焼くなり好きにして
構わない。ただ一つだけ約束して欲しい・・・
いつかきっと二人を引き合わせてくれると。

最後に少しだけ、『私』の話でもしておこう。
『私』は君たち冒険者が良く知っているモノだ。
『私』は何一つ無かった場所に世界を作り
そこにたくさんの命を作り出した・・・そして
今、『私』はいつものように始まりの場所にいる。
また今日も新しい冒険者がやって来て『私』を
退治するんだろう・・・それでいい、もっともっと
強くなってもらわねば困るのだ・・・だから
『私』は永遠にこの場所で、永遠に最弱のまま
ノロノロと動き回っている・・・いつだって君たち
冒険者の後姿を見届けながら。『私』が想像した
ちっぽけで広大な世界にやってきた、全ての
冒険者たちは、『私』を倒すことから始まり
そしてホーンテイルを倒すことへ進んでいく。
『私』はその為に、今日もノロノロと動き続ける。





『私』は 始まりのモノ、『私』はデンデン。




次へ