“気がついたら、いつもアイツが
 そばに居て、笑ってくれていた”





世界は、今日もいい天気だ。
きっと明日もいい天気だろう。

この世界に、俺は随分と長い間生きているような
気もするしつい最近生まれたような気もする。
ようするに、俺は覚えていないわけだ。
自分がいつ、どうやって、どこで、生まれたのか。
別にそんなことどうだっていい・・・気がするけど
でも時々思う、俺はなんでこんな世界にいるんだろって。
周りは溶岩とゴツゴツした岩ばっかりだし、友達は
いるけど、随分遠い場所に住んでるからなかなか
会えないし・・・でもアイツ以外の友達は居ない。
友達が少ない訳じゃない、アイツと俺以外に
この世界に住んでる奴が居ないからだ、こんなに
だだっ広い世界なのに、何故か俺とアイツしか
居ない。ひょっとしたら居るのかもしれないけど
俺は見たことが無い。だからこの世界には俺と
アイツしか居ない・・・さっきからアイツと言って
いるけど、アイツにもちゃんとした名前があったっけ。
最初会った時は嫌な奴だなーと思ってたけど
今ではなんだか仲良くなってる。たぶん俺と
アイツが似た物同士だからだろう・・・アイツも
俺と一緒で自分がいつ、どこで、どうやって
生まれたのか知らないらしいから。だから俺と
アイツは似た物同士だ、この無駄に広い世界の
中で二人ぼっちの似た物同士・・・そして俺は今
そんなアイツのいる深い洞窟の奥へと進んでいる。

白く尖った岩で出来た大きな洞窟、ここに
アイツは住んでいる。俺の住処と違って
静かで涼しくて落ち着ける場所だ・・・。
俺の住処は熱いし溶岩の弾ける音が
うるさくって寝てられない、アイツだけ
なんでこんないい場所に住んでるんだろう。
ちょっと羨ましいけど、だからと言って自分の
住処を離れるつもりは無い。あの場所で
生きることは俺に課せられた使命・・・なのだ。
なんとなくそんな気がする、遠い昔に誰かに
そんなことを言われたような・・・そんな気が。
まぁそんな無駄な話は置いといて、アイツと
一緒に遊ぶ約束をしてるんだ。アイツは気が
短いから一分でも遅刻すると怒り出すんだ。
早く行かないとまた怒られてしまう・・・。

俺は洞窟の一番奥に辿り着いた。

「おーい、ホーンテイル!」

アイツの名を呼ぶ、返事は無い。
まさか約束を忘れた?いや・・・
アイツに限ってそれはアリエナイ。
ということは、どこかに隠れている。
「おーい・・・どこに居るんだよー」
俺は周囲をキョロキョロと見回す、しかし
アイツの姿はどこにも見当たらない。
シンと静まり返った洞窟はやけに不気味だ。
「・・・居ないんだったら帰るぞー」
俺はてくてくと今来た道に引き返そうとする。

「ちょっとぉ!!ジャクムっ!
 何帰ろうとしてんのよぉ!!」

紫色の水晶の後ろから、アイツが現れた。
「人がせっかくカクレンボしてあげようと
 してるってのに!!失礼な奴ねっ!!!」
ぷりぷりと怒りながら俺の前へと飛来する。

少し茶に近い赤色の髪に、幾本もの角。
大きな翼に長い尻尾。少し吊り上がった
大きな目、これが俺の友達、ホーンテイル。
「ごめんごめん、そう怒るなって。」
俺はホーンテイルの手をグッと掴んだ。
「今日は武陵に行こうぜ、あそこの桃が
 ちょうど熟れ頃なんだ・・・ほら、なっ?」
ホーンテイルは少しふくれながら翼を広げる。
「しょうがないわね・・・連れてってあげるわよ。
 でっでもアンタの為じゃないんだからねっ!!
 あたしはただ桃が食べたいだけなんだからね!!」
いつものように可愛くない台詞を言い捨てて
大きな翼で空へと飛び立った、ホーンテイルの
住処がどんどん小さくなっていく。いつもは遠い
空が、だんだんと近づいていくのが楽しい。



世界は、今日もいい天気だ。





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