“アイツは友達・・・ただの友達
 それ以上でもそれ以下でもない。”




桃が美味しい、武陵になる桃はちょうどこの時期が
熟れ頃。あたしはこの桃が好き、甘くって美味しい。
あたしは高い木に腰かけながら桃を食べてる。
今日もこの世界は嫌というほど平和、いつもそう。
毎日毎日つまらないほど平和・・・まぁ悪い事じゃ
ないんだけど・・・この世界にはあたしとアイツしか
居ないから時々無性に嫌気が差すの、別に
アイツが嫌いって訳じゃない。でも他の誰かと
話したりしてみたいって思う・・・だってアイツは
遠い所にすんでるからなかなか会えないし・・・。
「おーい、ホーンテイル!もう一個くれよー」
アイツが声をかけてくる、あたしは便利屋じゃないわよ。
「自分で食べる分くらい、自分で取りなさいよ!」
フン、とアイツを突き放す。するとアイツは十本の
腕を使って器用に木を上りだす、あたしの腰かけてる
横に腰をおろすと、あたしの持ってた桃を横取りした。

「あ゛ー!!!!」

あたしは悲鳴に近い声を出す、アイツはニヤニヤと
楽しそうに笑った。あたしはギロッと睨みつけてやる。
「あははは!お前って本当面白いなー!」
何がそんなに楽しいのかってぐらいに笑い出す。

あたしの唯一の友達、ジャクム。十本の腕を
持った男の子、少し焼けた肌、黒くて大きい瞳。
最初会った時はめちゃくちゃ嫌な奴だと思ったわ。
だっていきなりあたしの事「男か?」って聞いて
きたのよ?!信じられない!レディーに向かって
失礼極まりないわ!!でも・・・色々と話していく
うちに、結構いい奴だって解ってきて・・・今では
すっかり仲良くなってる、けど・・・アイツはあたしを
友達としてしか見てないのよね。そう、当たり前。
アイツにとってあたしはただの友達・・・世界に
たった一人しか居ないただの友達、あたしの
気持ちなんて、絶対にコイツには伝わらない。
ううん、伝わらなくっていい。伝わったらきっと
壊れてしまう。今まで積み上げてきた、何かが。
そうよ、あたしはジャクムが好き。それは友達と
してじゃなくて、男の子として・・・どうしてこんな
奴をって自分でも思うけど、でも・・・あたしは
ジャクムが好き、解ってるの、あたしとジャクムは
ただの友達。それ以上にもそれ以下にもなっちゃ
駄目なんだって、解ってる、でも・・・でも・・・。

「おっし、桃も食べたし・・・
 次どこ行く?ルディの時計塔で
 カクレンボとかどうだ?それか
 フロリナで海遊びとかもいいなー」

ジャクムがあたしに手を伸ばす、あたしの
気持ちなんて知りもしない手。温かい手。
「そうね・・・時計塔でカクレンボがいいわね」
あたしは内心の拘泥を押し隠して、再び背中の
翼を広げる。ジャクムが嬉しそうに笑いかける。

ふわりと空へ飛び立って、あたしはルディへと
飛行する。世界は今日もいい天気、きっと
明日もいい天気だし、明後日も明々後日も
きっといい天気。でもあたしの心は雨模様。
ジャクムはそんなこと知らない、知らなくていいけど。
飛んでいるうちに、景色が変わっていく。
オモチャ箱をひっくり返したようなルディブリアム。
あたしは地面にゆっくりと着地する、ジャクムは
まっさきに時計塔の中へと走り出していく。
「何してんだホーンテイル!置いてくぞー」
ジャクムがあたしに呼びかける、あたしは
仕方が無さそうにその後ろを追いかけていく。
いつもと同じ、アイツはあたしを振り回して
知らない世界へ連れてってくれる。あたしは
少し不機嫌そうにアイツの後ろについて行く。
それがあたしたちの関係、それが正しい関係。






これでいい、このままでいい。
このままが一番の幸せなのよ。






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