“嘘でもいい、嘘でも良いの
 一度だけ、好きだと言って。”




神聖な雰囲気が、ナインスピリットに漂っている。
木洩れ日を受けて静かに葉を揺らす大きな樹。
その袂に横たわる水色の生き物、それを見つめる
ジャクムとホーンテイル・・・どれだけ長い
時間が流れたのか解らないが、二人はずっと
そこでそうしていた。初めて見つけた他の
住人を死なせてはなるまいと、傍らにある
ことをけっして止めはしなかった。・・・そうして
随分と長い時間がたって、やがて水色の生き物が
ゆっくりと目を覚ました。ジャクムとホーンテイルは
疲れたのだろうか、ぐっすりと眠っている・・・。
水色の生き物はじっと二人を見つめ、そして
眩しい光に包まれると、水色の髪の男の子に
姿を変えた。ただ、頭に葉っぱが付いている。

「起きてください、お二人とも。」
丁寧な口調で二人を揺り起こそうとする。
先に目を覚ましたのはホーンテイルだった。
「・・・あんた、誰?」
目をパチクリさせながら男の子を見る。
男の子はニッコリと微笑む、その笑顔は
まるで天使さながらだ。ホーンテイルは
顔を赤くして、プイっと顔を背けた。
「んー・・・おわぁ!!誰だコイツ!!」
ジャクムがバッと身を起こし、身構える。
「ご心配には及びません、僕はあなたがたに
 助けて頂いた水色の生き物です・・・名前は
 ビシャスプラントと申します、お見知りおきを。」
深々と頭を下げる、実に礼儀正しい。
二人は多少ビックリしながらもニコッと笑った。
「そっか!悪い悪い・・・俺たち以外の奴は
 初めて見たからさぁ、俺はジャクムだ!
 エスナスの奥地に住んでる、よろしくな!」
ジャクムはビシャスプラントの手をギュッと
掴んで、ぶんぶんと振り回す。ジャクムより
ずっと身体が小さいビシャスプラントは身体ごと
振り回されてしまう、ホーンテイルが割って入る。
「あたしはホーンテイル、生命の洞窟の一番奥に
 住んでるの。よろしくねビシャスプラント!!」
嬉しそうに微笑んで、握手をした。

「こちらこそ、命を救ってくださって本当に
 ありがとうございます・・・僕は時計塔の
 守護をしているんですが・・・最近周りに
 言うことを聞かない連中が増えてきて・・・。」
ビシャスプラントはしょんぼりとした口調で言う。
ジャクムとホーンテイルは、自分たち以外の
住人がまだ居た事に驚きを感じていたが
それを押し隠し、お互いに顔を見合わせた。
「よぉし!!そんじゃソイツらがビシャスの
 言うこと聞くようにしてやるよ!ソイツら
 どこに居るんだ?・・・案内してくれないか?」
ジャクムの言葉に、ホーンテイルも頷く。
「こんなに小さい子をイジメルなんて
 許せないわ!こらしめてやらないと!」
二人の台詞に、ビシャスプラントはうっすらと
涙を浮かべた。慌ててそれを拭き取る。
「ありがとうございます・・・でもソイツらは
 結構強いんです・・・僕はまだ産まれて
 間もないから・・・全然歯が立たなくて・・・」
ジャクムは弱々しく語るビシャスプラントを
ギュッと抱きしめると、ホーンテイルの手を
掴んだ。ホーンテイルは仕方が無さそうに
笑って、背中の大きな翼をブワリと広げた。

「飛ばすわよ!!」

そう言うと同時に、急スピードでナイン
スピリットを飛び立った。そのままルディに
向けて、凄まじいスピードで移動していく。
ジャクムはホーンテイルと一緒に移動
することに慣れているが、ビシャスプラントは
これが初めてである。案の定、目を回して
いた、小さな身体はブルブルと震えている。
「おっおろしてぇぇぇぇ」
ビシャスプラントの情け無い声が響いた。







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