“なんで、こんな事になった?
 どこから崩れてしまったんだ?”





どうして、アイツなんだろう。
どうして、ビシャスじゃないんだろう。

いつだって、そう思っていた。
あんな奴なんかじゃなくてもっと良い男を捜せば
いいのに、それなのに、どうしてジャクムなんか。

アイツは友達・・・ただの友達 それ以上でもそれ以下でもない。

そう思うことは、とても簡単なこと。
それなのにあたしは、そうすることが出来ずに
ズルズルとアイツへの思いを引きずり続けていた。
バカみたいだって、自分でも思う、けど・・・
どうする事も出来ない、あたしはアイツが好き。
ビシャスと付き合ってる今でも、好き。

どうして、出来ないの? 好きだと言うだけなのに

それだけのことなのに、たった一言そう言う
だけなのに。それさえ出来ないなんて・・・
本当に、どうかしている。
「ホーンテイル」
ビシャスがあたしを呼んでる、ビシャスは凄く
良い奴。優しいし頼りがいがあるし、頭も良い。
ジャクムなんかより、ずっとずっといい男なのに。
どうしてビシャスを好きになってあげれないの?
どうしてジャクムじゃなきゃいけないの?

答えは、あたし自身にも解らない。

「どうしたの?」
ビシャスが心配そうに顔を覗きこむ。
あたしはこの子を好きにならなきゃ駄目なのに。
あんな奴のこと、忘れなくちゃいけないのに。
「なんでも無いわよ」
どうしてだろう、忘れようとすればするほど
アイツのことを忘れられなくなっているのは。
「・・・ホーンテイル、無理しなくていいよ」
ビシャスが悲しそうに顔を曇らせる。
「本当は、ジャクムのことが好きなんでしょう?」
ビシャスの言葉に、あたしは何も言えなくなる。
「いいんだよ、ジャクムの所に行っても。」
優しい言葉―――やっぱりビシャスは凄く
良い奴、この子を裏切っちゃいけない・・・
まして・・・ジャクムの所に行ったりなんて。
「何言ってんのよ!あたしはジャクムの
 ことなんて好きじゃないわよ!!何
 勘違いしてんのよ!あたしはあんたと
 付き合ってるんだから!!忘れたの?」
いつものように、ぷりぷりと怒ってみせる。
ビシャスは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ううん、ごめんね。変なこと聞いて・・・」
そう言って、あたしの身体を優しく抱き寄せる。

これでいい、これでいいのよ。

ビシャスはあたしを愛してくれてる。
ビシャスと一緒に居れば、あたしは幸せになれる。
叶わない恋をするよりは、ずっと。
今までずっと、心の奥底に隠してきた気持ち。
ジャクムのことを好きだという気持ち。
それはたぶん、永遠に消えはしない。
けど、今更それを伝えて、どうなるって言うの?
あたしの思いを伝えて、それで?

ジャクムがあたしを好きなはず
ないのに、伝える意味はあるの?

最初から解りきっていたこと、あたしとジャクムは
ただの友達、それ以上でもそれ以下でもない。
きっと、永遠に、ただの友達から変わることも無い。
だからあたしの気持ちは永遠に隠したまま。
誰にも知られることの無いまま。
そのままで良い、そのままじゃなきゃ駄目。
そうじゃないと、色々なモノが壊れてしまう。
今まで大切にしてきたものが、壊れてしまう。

だから、あたしの気持ちは永遠に闇の中。
今更伝える事に、意味なんて有るわけ無い。

ジャクムとは永遠に、ただの お友達。
それ以上でも、それ以下でも無い。
あたしはビシャスと一緒に幸せになる。
ジャクムだってきっといい相手が見つかる。
そしたら、きっと全部うまくいく、それでいい。

ううん、そうじゃなきゃ、駄目。

あたしの長い長い思いも、愛した日々も。
全部、嘘なんかじゃなったけれど
でもそれは口にしたとたんに毒になる。
口にしたとたんに棘になって突き刺さる。
だから、言わない、言えない、あたしの
思いはたくさんの人を巻き込んでしまうから。
今ここにある何かを、壊してしまう言葉だから。
だから、この気持ちは永遠に闇の中。
永遠に、あたしの中にだけ或る気持ち・・・

このままでいい
そのままでいい





そうじゃなきゃ、駄目。





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